「聞く」という行為は簡単に見えるものの、実はその奥深さや効果を知っている人は少ないのではないでしょうか?
「すごい傾聴」の著者、小倉広さんが提唱する「傾聴の3つの鉄則」は、単なるテクニックではなく、相手の心を深く理解し、信頼関係を築くための実践的な方法です。
この記事では、職場や日常で実践できる傾聴のコツを解説し、「聞く力」がどのように人間関係を良好にし、自己成長を促すのかを具体例とともにご紹介します。
傾聴の本質と3つの鉄則
傾聴とは何か
傾聴と聞くと、ただ相手の言葉を拾う行為を思い浮かべるかもしれません。しかし、「傾聴」とはそれ以上に深いものです。
心理学者カール・ロジャーズが提唱した「傾聴」とは、自己一致(自然体であること)、無条件の受容(相手をそのまま受け入れること)、共感的理解(相手の感じていることを理解する努力をすること)の3つを満たした状態で行う聞き方です。
このような傾聴は、相手に「安心感」と「自己肯定感」を与えるだけでなく、話し手自身が自分の感情や思考を整理する手助けとなります。
傾聴の効果
傾聴の最大の効果は、相手が自分の本音に気づき、それを自分で受け入れるプロセスを促す点にあります。
たとえば、部下とのワンオンワン面談で、ただアドバイスを与えるのではなく、相手の言葉に耳を傾けることで、部下は自分の問題を再認識し、解決への一歩を踏み出すことができます。
小倉さんは、この傾聴の重要性を具体化し、次の3つの鉄則を提案しています。
「いい人ぶるな、そのままでいろ」
多くの上司やリーダーが陥りがちなのが、「いい人ぶる」という行為です。親切に聞いているように見せかけながら、実際には心の中で判断を下したり、相手を説得しようと考えていることがあります。しかし、この「いい人ぶる」行動は、相手に「信頼されていない」という印象を与えることがあります。
たとえば、小倉さんがアメリカで心理学を学んだとき、教授が授業で自身の離婚経験を率直に語り、学生たちに本音を話すハードルを下げたというエピソードがあります。
このように、相手の警戒心を解き、本音を引き出すには、まず自分が「素の自分」をさらけ出す必要があります。無理に自分を良く見せるのではなく、欠点も含めた本当の姿を見せることで、相手との間に信頼関係が生まれます。
「言葉を聞くな、追体験せよ」
言葉を聞くだけでなく、その背景にある体験を共有することが重要です。これは「追体験」と呼ばれる方法で、相手が語る出来事を自分も体験するつもりで聞くことを意味します。
たとえば、「最近、失恋してしまって」と言われたら、「それは辛かったね」と簡単に返すのではなく、「どんなシチュエーションだったの?」と聞き、相手の体験を具体的にイメージします。このプロセスを通じて、話し手と聞き手の間に共感が生まれます。
実際、上司と部下が話をする場面で、上司が部下の話をただ表面的に聞き流すのではなく、その話の中にある感情やストーリーを理解しようと努めたとき、部下は「本当に分かってもらえた」と感じることができます。
「思考を追うな、感情だけを追え」
最後の鉄則は、相手の思考ではなく感情に注目することです。人間は論理的に話しているように見えて、その背景には常に感情が隠れています。「その時、どう感じましたか?」と感情に焦点を当てる質問をすることで、相手は自分の内面を深く探ることができるようになります。
例えば、部下が「最近、ミスをしてしまって」と話した場合、「どうしてそんなことが起きたの?」と問題解決を急ぐのではなく、「その時、どんな気持ちだったの?」と感情に寄り添う質問をすると、相手は心を開きやすくなります。このようなアプローチが、信頼関係を築く鍵となります。
傾聴がもたらす変化
ある職場で、上司がこの3つの鉄則を実践したところ、部下がミスを隠さず率直に報告するようになり、チーム全体の信頼感が高まりました。また、部下自身もミスを前向きに捉え、改善点を自主的に考えるようになったと言います。
傾聴の具体的な実践ステップ
傾聴は「聞く力」として非常に強力なスキルですが、いざ実践するとなると「どこから始めればいいのかわからない」という人も多いかもしれません。
ここでは「すごい傾聴」に記載されている具体的な方法をもとに、傾聴を日常や職場で活用する手順を解説します。
ステップ1:相手との間に壁を作らない
最初のステップは、相手が安心して話せる環境を作ることです。話し手が「批判されるかもしれない」「アドバイスを押し付けられるかもしれない」と感じていると、本音を語ることはできません。
たとえば、ワンオンワンの面談で「最近どう?」とざっくり聞くだけでは、相手は具体的な話をしづらいかもしれません。代わりに、「最近のプロジェクトの進捗で何か気になっていることはある?」と具体的なトピックを提示し、さらに「安心して話してほしい」と一言添えることで、相手が話しやすい雰囲気を作ることができます。
この時、上司自身がリラックスしている姿勢を見せることも重要です。腕を組んだり、無表情で聞くのではなく、軽くうなずきながら、相手の話に興味を持っていることを示しましょう。
ステップ2:エピソードを引き出す質問をする
傾聴を効果的に行うためには、相手の話から具体的なエピソードを引き出すことが必要です。ただし、質問攻めにするのではなく、自然な会話の流れの中でエピソードを聞き出します。
例として、「最近どんな困ったことがあった?」という抽象的な質問ではなく、「前回のミーティングで、あの議論の後どう感じた?」や「先週のプロジェクトで何か印象的な出来事はあった?」といった、状況やタイミングを限定した質問を使うと効果的です。
具体的なエピソードを聞くことで、相手の感情や考え方がより鮮明に伝わります。また、そのエピソードに自分も一緒に感情移入することが可能になり、より深い共感が生まれるでしょう。
ステップ3:感情に共感する
話し手がエピソードを語り始めたら、その中に込められた感情に焦点を当てます。多くの人がやりがちなのは、話の論理や解決策に注目しすぎてしまうことですが、傾聴ではあくまで感情を追います。
たとえば、「プロジェクトの遅延で責任を感じている」という話を聞いたときに、「それを解決するにはどうしたらいい?」と話を進めるのではなく、「その時、どんな気持ちだった?」と感情に寄り添う形で質問をします。もし相手が「焦った」と答えたら、「焦るって具体的にどういう感じだった?」とさらに深掘りします。
ここで大事なのは、相手の感情に同じように自分の心を動かすことです。相手の焦りや悔しさを想像し、自分も一緒に体験するつもりで耳を傾けます。
ステップ4:信念や価値観に共感する
最後のステップでは、相手が持つ信念や価値観に共感します。これにより、単なる表面的な話を超えた深い理解と信頼が生まれます。
たとえば、「私はいつもチームのために最善を尽くしたい」と話している部下に対して、「その思いを持ち続けているのは素晴らしいね。それが君の強みだと思うよ」と返すことで、相手の価値観を尊重し、承認する姿勢を示せます。
このプロセスを通じて、相手は自分の内面をより深く理解することができ、自己成長を促進するきっかけを得られるでしょう。
傾聴がもたらす効果
傾聴の実践は、ただ相手の話を聞くだけではありません。傾聴を通じて、話し手が自分の感情や価値観を再発見し、それに対する肯定的なフィードバックを得ることで、大きな自己成長が期待できます。
また、傾聴を実践することで、職場や家庭での人間関係も大きく変わります。例えば、あるチームでは上司が「傾聴」を取り入れた結果、メンバー同士の信頼感が高まり、プロジェクトの成功率が向上しました。また、メンバーが自分の考えを率直に共有するようになり、コミュニケーションの質が格段に向上したという事例もあります。
実践における注意点
傾聴を始める際には、以下の点に注意することが重要です。
- 沈黙を恐れない:話し手が考えている間の沈黙は、相手の感情を整理する時間です。無理に埋めようとせず、待ちましょう。
- アドバイスを急がない:相手が話し終えるまで解決策を提示しないようにしましょう。早急なアドバイスは、相手の考えや感情を軽視する印象を与えることがあります。
- 自分の話をしすぎない:話し手が主役であることを忘れず、自分の体験を過度にシェアしないように注意しましょう。
傾聴を取り入れたワンオンワンの実践例
ここでは、職場でのワンオンワンミーティングを例に、傾聴の具体的な活用方法をご紹介します。この方法を実践することで、部下や同僚との信頼関係が深まり、仕事のパフォーマンス向上につながります。
ケース1:部下のミスに対する傾聴
あるプロジェクトで部下がミスをしてしまい、落ち込んでいる場面を想定します。この場合、傾聴を活用することで、部下が自信を取り戻し、改善の意欲を持てるようにサポートできます。
- 状況の確認
まず、相手に「今回のミスについて、どんな気持ちだった?」と感情に焦点を当てて質問します。ここで重要なのは、責任追及や原因分析ではなく、相手の気持ちに寄り添うことです。 - エピソードの引き出し
「そのミスが発生したとき、具体的にはどんな状況だった?」と聞き、相手の体験を詳しくイメージできるようにします。この過程で、部下自身が状況を振り返ることができるため、自然と改善の糸口が見つかることもあります。 - 感情の共感
部下が「本当に申し訳ない気持ちだった」と言った場合、「その時、自分も同じ立場だったら同じように感じると思う」と感情に共感します。このようにして、部下の感情を否定せず受け止める姿勢を示します。 - 信念や価値観の承認
最後に、「君がそのミスを真剣に受け止めている姿勢を見て、改めて責任感の強さを感じたよ」と言葉を添えることで、部下の内面的な価値観を肯定し、自信を回復させます。
ケース2:個人の目標設定における傾聴
部下が自分の目標設定に悩んでいる場合にも、傾聴を活用することで効果的なサポートが可能です。
- 悩みを聞く
「どんなことで悩んでいるの?」と聞き、話し手が心を開ける環境を作ります。この際、具体的な例や状況を聞き出すことで、相手が話しやすくなります。 - 感情を掘り下げる
「その時にどんな感情を抱いたのか?」と尋ね、相手が自身の気持ちを整理できるよう促します。このプロセスを通じて、目標設定における不安や迷いを浮き彫りにします。 - 未来のビジョンを共有する
「それを解決したら、どんな未来が待っていると思う?」と問いかけ、相手が目標達成の意義を再確認できるようにします。この質問は、相手の価値観や信念に触れるきっかけとなります。
家庭での傾聴の応用例
傾聴は職場だけでなく、家庭でも大いに役立ちます。例えば、子どもが学校でのトラブルを話したい場合、親が傾聴を実践することで、子どもは安心して本音を語ることができるようになります。
- 安心感を与える
「どうしたの?何かあったの?」と優しい口調で声をかけます。ここで大事なのは、話すことを強制せず、子どもが自発的に話し始めるのを待つことです。 - 体験を共有する
「その時、どんな風に感じたの?」と聞くことで、子どもの体験に共感しやすくなります。たとえば、「友達に嫌なことを言われた」と話す子どもに対して、「それは辛かったね」と感情を受け止めることが重要です。 - 解決を急がない
「次はこうすればいいんじゃない?」とアドバイスをするのではなく、「それでどうしようと思ったの?」と子ども自身が解決策を考える機会を与えます。このアプローチにより、子どもは自己肯定感を高めることができます。
傾聴を習慣化するためのコツ
傾聴を実践するには、以下の習慣を取り入れると良いでしょう。
- 1日1つの会話で傾聴を意識する
日々の生活の中で、1つの会話に焦点を当て、傾聴の技術を試してみましょう。短い会話でも、感情や価値観に焦点を当てることで、深いコミュニケーションが可能です。 - 沈黙を楽しむ
沈黙が続くと、話題を急いで提供したくなることがありますが、相手が考える時間を尊重することで、より深い話を引き出せることがあります。 - 自分のフィードバックを意識する
話し手に対する自分の反応が適切かどうかを振り返り、次回に活かしましょう。特に感情への共感や、余計なアドバイスを控えることを意識することが大切です。
まとめ
「すごい傾聴」に基づく聞き方の技術は、職場でも家庭でも、あらゆる人間関係に応用できる強力なスキルです。傾聴の3つの鉄則(「いい人ぶるな」「言葉を聞くな、追体験せよ」「思考ではなく感情を追え」)を実践することで、相手の信頼を得るだけでなく、自身の人間力も高めることができます。
次に読むべき行動として、このブログで紹介した内容を日常生活で試してみてください。そして、さらに深く傾聴を学びたい方は、ぜひ小倉広さんの著書「すごい傾聴」を手に取り、実践方法を自分のものにしてみましょう。傾聴の力で、あなたの人間関係と人生をより豊かなものにしてください。
コメント